アジア起業家

「思いはやがて"覚悟"に変わる」インドの貧困課題と向き合う28歳社会起業家の挑戦

「行動は裏切らない! 思い立ったらまずは行動!」

これは、インドの貧困課題を解決するために奮闘する社会起業家、水流早貴(つる さき)さんがみなさんに送るメッセージです。

水流さんは、バックパッカーとして旅をする中でインドを訪れ、貧しさが理由で夢を諦めざるをえない子どもたちをたくさん目にしてきました。
そのときに抱いた「インドの貧困課題を解決したい!」という強い思いを胸に、社会起業家に転身。

NGOでの活動やソーシャルビジネスでの経験、日本での社会人経験など、思いの実現に向けて模索し続けた末の起業でした。
現在はインドでスラムの女性たちを雇用し、家事代行サービスを展開されています。

さまざまな挑戦から得た気づきや経験をもとに、道を切り拓いてきた経験があるからこそ、まずは行動する大切さを伝えたいとのことでした。

今回は、そんな水流さんに以下のようなお話を伺ってきました!

  • 「インドの貧困課題を解決する!」という思いを抱いたきっかけとは?
  • 現在の事業を始めるまでの具体的な意思決定のプロセスとは?
  • インドで事業を立ち上げたことで起きた変化とは?

思いの実現に向けてさまざまな挑戦を続けてきた水流さんの姿から、きっと一歩踏み出す勇気が得られるはず。
ぜひ最後までお読みください!

水流早貴さん プロフィール
都留文科大学卒業。学生時代にインドのNGOや現地企業、フィリピンの社会的企業でインターンシップに参加。2016年パーソルキャリア株式会社に入社し、人材紹介部門で法人向けの採用コンサルティングに従事。2018年11月に株式会社ボーダレスジャパンに転職し、ビジネスプランを策定。2019年7月にインドでSAKURA Home Serviceを立ち上げ、現在は事業を軌道に乗せるために奮闘中。
株式会社ボーダレスジャパンHPと当日伺ったお話をもとに執筆。

 

「インドの貧困課題を解決したい!」芽生えた思いを胸に、模索を続ける日々

 

── 学生時代に海外インターンに挑戦し、現在はインドで起業されている水流さん。最初に、海外に関心を持ったきっかけについて教えていただけますか?

 

中学生の頃、メーカー勤務の父が中国や東南アジアによく出張していました。
出張から帰ってきた父から各国の様子を聞くことで、日本とはまったく違う世界があると知り、いつかは自分の目で見てみたいと思うようになりました。
当時からずっと海外に関心があり、大学も英文学科に進学しました。

途上国に目を向けるようになったのは大学時代、ある先輩との出会いがきっかけです。
その先輩は東南アジアやアフリカで、途上国の教育課題を解決するために活動を続けていました。
いずれ先輩のようになりたいと思った私は、まずはバックパッカーとして東南アジアやインドを旅することにしたんです。

 

── なぜ、貧困課題の解決に関心を持つようになったのでしょうか?

 

バックパッカーとしてインドを訪れたときに、貧困層が多く住むビハール州で目にした光景に憤りを感じたからです。

訪れた村の子どもたちはとても勉強熱心で、それぞれが大きな夢を持っていました。
にもかかわらず、貧しさを理由に、夢を諦めざるをえない環境に置かれていたんです。
その姿を目の当たりにして、私は「なんて理不尽なんだろう・・・」と思いました。

今振り返ると、幼い頃の自分と貧困地域の子どもたちを重ねていたのだと思います。

 

── 「幼い頃の自分と重ねていた」とは、具体的にどういうことでしょうか?

 

小学生の頃、周りに馬鹿にされた経験があり、学校で居心地の悪さを感じていた時期がありました。
当時の自分と、環境のせいで自分らしく生きられない子どもたちの姿が重なったんです。

ありがたいことに私は、資格取得や途上国への旅など、「強い自分になる!」を軸に、これまで思う存分チャレンジしてきました。
一方、インドで出会った子どもたちは、苦しい現状を抜け出すチャンスさえも与えられていませんでした。

それがきっかけで、「貧困に苦しむ、理不尽な環境から抜け出して、夢を叶えられる社会を創りたい」と思うようになりました。
インドのNGOでボランティア活動に励んだのも、フィリピンの社会的企業でインターンシップに参加したのも、貧困課題を解決する糸口を見つけたかったからです。

 

── 活動を続ける中で、解決の糸口は見つかったのでしょうか?

 

持続可能な支援のためには、ソーシャルビジネス(※)が理想的だと思うようになりました。

NGOが行っていた、学校の建設や教育支援自体は素晴らしい活動でした。
ただ、何度か足を運んでいるうちに、寄付金が減っていて思うように支援ができない状況も目にしたんです。
このまますべてを寄付に頼り続けていると、寄付が止まった段階で子供たちを救えなくなると思いました。
今度はビジネスの力で、貧困課題を解決するための具体的な方法を探し始めました。

そこで、まずはビジネスの基礎を学ぼうと、インド現地企業でのインターンシップに参加しました。
ここで、自分の実力不足を痛感することになりました。

※ソーシャルビジネスとは、環境・貧困など、社会的課題の解決を図るための取り組みを持続可能な事業として展開することです(参照元:コトバンク)。

 

── 一体、何があったのでしょうか?

 

インド現地の企業で、日本人向けのカスタマーサポートを担当していましたが、インド人スタッフのマネジメントに苦戦し、大きな成果を残せなかったんです。
当時は、目の前のインド人スタッフの心すら掴めない自分に対する悔しさ、お客様への申し訳なさが募るばかりでした。
今の自分のままでは、インドの貧困課題を解決するために何かを始められないと判断しました。

この段階では、まだ具体的なアイデアもなかったので、もっと力をつけるためにも、一旦日本で就職することにしたんです。

 

── そうだったんですね・・・! それから、人材紹介会社を選んだのはなぜだったのでしょうか?

 

まだビジョンは漠然としていたものの、貧困課題の背景には雇用の不足があるはずだと、仮説を立てていたからです。
人材業界で雇用創出に携わる過程で、何か課題の解決に繋がるヒントが得られるのではないかと思いました。
そこで縁あって入社したのが、前職のパーソルキャリア株式会社でした。

振り返ると、ビジネスにおける基本的な思考プロセスや対人折衝力が身についたのは、前職での経験があったからだと思います。
それに、入社時から「インドの貧困課題を解決したい!」と言い続けていた私に対して、目的の実現に向けて今すべきことを、上司が一緒に考えてくれたんです。
おかげで、目的を見失うことなく、目の前の仕事に全力で取り組めました。

 

── とても充実した毎日を過ごされていたんですね! 退職に踏み切ったきっかけについて教えていただけますか?

 

会社員として勤務しながら、社会起業家塾に所属し、休日は勉強会やフィールドワークに積極的に参加していました。
その過程で、インドで貧困課題を解決したいという思いはだんだんと募っていたんです。
決定的な出会いは、夏季休暇を使ってインドネシアでインターンシップに参加したときに訪れました。

インターン先は、インドネシアでソーシャルビジネスを展開する企業の中では、かなりの歴史と実績を誇っていました。
当たり前ですが、今では大きく成長しているその企業も、最初は代表の方がたった一人で立ち上げています。
代表の方とお話をする過程で、たった一人の思いから事業が始まるんだと、肌で感じたんです。
「まずはインドに行って、とりあえず動いてみること」という代表の方のアドバイスにも後押しされ、帰国後すぐに退職届を出してしまいました。

ちょうど、目標にしていた社内MVPを獲得した後でもあり、前職でやりきったと思えていたからこそ、決断できたというのもあります。

 

インドで家事代行サービスを始めた理由は、「スラムの女性を救いたい!」という思い


現在は、社会起業家のプラットフォーム「ボーダレスグループ」に所属する1事業として、インドで家事代行サービス事業「SAKURA Home Service」を運営されている水流さん。
ここでは株式会社ボーダレスジャパンに転職後、現在の事業を立ち上げた背景に焦点を当てて、お話を伺ってみました。

※株式会社ボーダレスジャパンの事業形態の詳細については、企業HP「恩送りのエコシステム」を参照ください。

SAKURA Home Serviceの事業概要
スラムの女性たちを雇用した上で、以下2つのサービスを提供している。
主なお客様はインド人の富裕層。

  1. メイドサービス:掃除のスキルやマナー、基本的な英語、衛生観念についてのトレーニングを実施したメイドをお客様宅に派遣。
  2. ディープクリーニングサービス:機材を活用した大掃除のサービスを提供予定。

 

── 雇用創出を通してインドの貧困課題を解決するにあたって、なぜスラムの女性に目を向けたのでしょうか?

 

ボーダレスジャパンに入社後の現地調査で出会った、スラムで生活する女性たちの思いに心動かされたからです。

インドで調査を始めた段階では、支援の対象や活動する地域はまったく決まっていませんでした。
農村部、都市部の両方を訪れ、たくさんの方々からお話を伺いました。
その過程で、スラムの女性たちが語る、子どもたちへの思いに触れたんです。

「家庭が貧しいせいで、子どもたちにツラい思いをさせたくない」
「私がスラムで一生を終えるのは構わない。ただ、子どもたちにはそうでない人生を歩んで欲しい」

思いが強いあまり、涙ながらに話す女性たちの姿を見て、「彼女たちのためになりたい!」と強く思いました。
そこで初めて支援の対象をスラムの女性たちに絞り、彼女たちの雇用を創出することを目標に、調査を続けたんです。

 

── 調査の末、なぜ家事代行サービスを始めようと思ったのでしょうか?

 

スラムで生活する女性たちの多くが特定の会社に所属せず、メイドとして働くことに課題があることに気づきました。
彼女たちは、特定の会社に所属しないため、労働法や雇用条件に守られることがありません。
そのため、最低賃金以下で雇用され、いくら仕事を掛け持ちしても収入が上がらない状態だったんです。

この仕組みをなんとかできないかと考えたとき、彼女たちが「したいこと」や「できること」に目を向けることにしました。
ただ、これまで将来について考える機会がなかった女性たちから、「したいこと」を導き出すことは難しいものでした。

 

── それで、まずは「できること」に目を向けられたんですね!

 

はい。そこで「できること」を考える上で目をつけたのが、メイドとして働く女性たちの多くは母親であることでした。
彼女たちは母親として、掃除や洗濯といった家事はもちろん、子育ても自分の手でこなしています。
その強みとこれまでメイドとして培った経験に付加価値をつけて提供すればいいのではないかと考えたんです。

そこにビジネスとしてニーズがあるのかも気になりますよね。
日本人駐在員の方や周りのインド人に話を聞くと、メイドに対する不満が多く挙げられました。
例えば、所持品を盗まれる、求める質を満たすサービスを受けられていない、などです。

そこで、家事代行サービスを展開しようと決めました。
スラムの女性たちのできることで、メイドサービスを受けたい日本人・インド人のお客様のニーズを満たせると確信したからです。

水流さんがインドで家事代行サービスを立ち上げた理由(まとめ)
・スラムで生活する女性の雇用を創出する。特に、メイドとして働く女性が抱える課題を解決したい(「何がしたいか」軸)
・母親としての強みを付加価値として加えた、メイドサービスを提供する(「何ができるか」軸)
・メイドサービスに対するお客様の不満を解消する(「社会におけるニーズ」軸)

 

── 最終的に、日本人ではなく、インド人の富裕層をターゲットにした背景について教えていただけますか?

 

最初は日本人のお客様をメインにサービスを展開しようと思っており、活動の拠点も日本人が多いエリアにしていました。
ただ、グルガオンの中で最も富裕層が多いエリアでもあるので、スラムの女性たちでもある程度の収入が得られていることに気づいたんです。
ビジネスとしては軌道に乗せられそうでしたが、もっと支援すべき人たちがいるのではないかと思いました。

考えた末、本当に支援が必要としている女性たちが多い地域は、今活動の拠点としているオールドグルガオンだと判断しました。
そうなると、オールドグルガオンに日本人はほとんど住んでおらず、移動のコストなどを考えると、必然的にターゲットはインド人の富裕層やミドルアッパー層となりました。

 

「思い」は「覚悟」へ! 事業を軌道に乗せるために奮闘する「今」と期待が高まる「これから」

 

── 事業の中でも特に、水流さんのお仕事について教えていただけますか?

 

当初は採用したメイドのトレーニングも含め、すべて私が担当していました。
昨年(2019年)の10月からインド人スタッフを採用したので、最近のトレーニングはインド人スタッフが担当しています。
ただ、お客様の求める基準を満たせているかを確認するために、派遣し始めて最初の1〜2週間は私が直接訪問して、指導しています。

それ以外にも、新しいサービスを展開するためのリサーチやそれを踏まえた戦略の策定、営業活動に使うチラシの制作、SNSマーケティングなどに最近は注力しているところです。
また、サービスを改善するためにも、最初のヒアリングは直接お客様とお話をして、お客様のニーズをより正確に把握できるようにしています。

 

── お仕事は多岐に渡るんですね! 大変なことも多いのではないでしょうか?

 

そうですね。
特に、マネジメントにおける課題は山積みです。
お客様のところでお客様に口答えをしてクレームになってしまったり、少し目を離すと、作業の質が落ちてしまったりもします。
営業も上手く行かない上に、数名のメイドを解雇せざるをえなかったり、お客様からのクレームも出たりするなど、大変なことが立て続けに起こった時期もありました。

ただ私は、上手くいかないことが重なったときこそ、チャンスだと思うようにしています。
特に、今は立ち上げたばかりなので、上手くいかない原因を探ってみると、仕組みで解決できるところがたくさんあるはずです。
単なるモヤモヤや悩みに終始するのではなく、原因とその解決策をしっかりと考えることが大切だと、弊社代表の田口からもよく言われています。

 

── 素敵な心構えですね! お仕事のやりがいについて教えていただけますか?

 

トレーニングや仕事を通して、女性たちがどんどん成長する様子を見られるのがとても嬉しいです。
知らない間にお客様から高い評価から信頼を獲得しており、頼もしく感じることもあります。
採用した当初と比べると、スタッフの顔つきも随分変わりました!
こちらが上手に強みを引き出せば、もっと輝ける女性たちが増えていくのではないかと期待感が高まっています。

 

── これからがますます楽しみです! 今後の事業展開についてはどのようにお考えでしょうか?

 

事業内容やビジネスモデルは変わってもいいので、インドで女性のために雇用を生み出し続けたいです。
また、今はグルガオンの一部エリアでのみ活動していますが、デリー近郊やインド全土へ広げていきたいとも思っています。

事業を始めた当時の原動力は「インドの貧困課題を解決したい!」という思いでした。
ただ、子どもたちのために頑張ろうとする女性たちを採用し、ときには解雇するという苦渋の決断も経験しながら向き合っていく過程で、「思い」は「覚悟」に変わりました。
支援が必要な人たちはまだたくさんいらっしゃるので、覚悟を胸に、できることにどんどん取り組んでいきたいと思っています。

 

海外で働きたい方へのメッセージ

「行動は決して裏切らない! 思い立ったらまずは行動!」
「やりたいことが見つからない」と相談を受けることがよくありますが、私自身も起業に至るまでに、たくさんの行動を重ねてきました。
バックパッカーとしての旅から始まり、NGOでの活動やソーシャルビジネスでの経験、日本での社会人経験など。
これまで続けてきた、様々な挑戦から得た気づきや経験が今に繋がっています。
自分の心が動くことにチャレンジし続けた先に、きっと何かが見えてくると思います!

「経験者の話を聞いて、具体的にイメージする!」
海外で働いてみたいと思っていても、不安や恐さからなかなか一歩を踏み出せない方も多いと思います。
だったら、まずは実際に海外で働いている方にお話を聞いて、具体的にイメージしてみるといいのではないでしょうか。
私自身もこれまでNGOで活動されている方などにお話を伺いながら、思いの実現に向けた道筋を立ててきました。
既に経験した方のお話の中から、何かヒントが得られることもきっとあると思います。

 

水流さん、今回は貴重なお話をお聞かせいただきまして、本当にありがとうございました!

なお、本記事は2020年2月の取材内容にもとづき執筆しています。
現在の水流さんはコロナ禍を経て、家事代行からハウスクリーニングにサービスモデルを転換。
お客様からのニーズも増えており、スタッフも増員して更なる拡大目指しているそうです。
引き続き、ご活躍と事業の発展を心より応援しています!

 

*今回ご紹介した水流さんのTwitterについては>こちら
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Jiyoung Baek

セブ留学がきっかけで東南アジアの虜に!! フィリピン・セブでの海外インターンを経て、ベトナム・ハノイで海外就職。約2年に渡って大好きな東南アジアで働きながら、旅をする生活をしていました。 現在は自身の海外経験を基に、旅するインタビュアーとして海外で活躍する方々を取材し、「海外で働くとは」について発信することで、海外で働きたいけど一歩踏み出せない方に挑戦のきっかけを作るべく奮闘中。 どんなときもアジアの眩しい陽射しのような笑顔を忘れず、頑張っています! 日々大事にしていること「やらない後悔よりやって後悔、何でもやってみる!」