インド初日本人経営のサッカーアカデミーを創業した高岡武尊さんが語る、“振り幅の大きな”意思決定とは?
「一度振り幅の大きな意思決定ができれば、その後もきっと大きな意思決定ができる」
そう力強く語ったのは、今回お話を伺った高岡武尊(たかおか たける)さん。
上場企業を退職後にインドで就職した後、インドで初となる、日本人経営のサッカーアカデミーを創業されました。
そんな高岡さんが、インドで就職・起業すると決めたときに意識していたことが、「意思決定の振り幅」でした。
未知の世界へ飛びだすとき、不安や恐れもあって、なかなか行動に踏みきれないもの。
ただ、一度勇気を出して大きく一歩を踏みだせば、どんどん新しいことにチャレンジできるようになるはず。
だからこそ、高岡さんは「勇気を出して、最初の一歩を大きく踏みだしてほしい」とエールを送っておられます。
今回はそんな高岡さんに、以下の3点についてお話を伺ってみました!
- インド就職・起業における意思決定のプロセスとは?
- インドでサッカーアカデミーを始めた背景にある思いとは?
- インドで事業を展開する中での心構えとは?
失敗を恐れず、勇気を出して挑戦し続ける高岡さんの姿は、きっと迷っている方の背中を押してくれるはず。
ぜひ最後までお読みください!
*本文中の一部お写真は高岡さんご本人からいただいたものです。
大学卒業後に日本のエネルギー系専門商社に入社し、法人営業として3年間勤務。2016年4月より、インドで日本人・インド人向けに教育サービスを提供する企業に転職し、マネージャーとして約2年間勤務。その後、インドで初となる日本人経営のサッカーアカデミー「TSUBASA Football Academy」を創業し、サッカーを通してインドの教育課題を解決しようと奮闘中。インド在住歴は5年目。
*当日伺ったお話をもとに執筆。
目次
仕事に打ちこむことで自信をつけていく一方、キャリアについて悩み始める
── インドで就職・起業された高岡さん。もともと海外には関心があったのでしょうか?
もともとはありませんでした。
高校時代、所属していたサッカーチームの遠征で訪れたイングランドでは、初めて海外を訪れたわりに、サッカーに夢中で、そこまで大きな感動はなかったと記憶しているぐらいです。
海外に強く関心を持ち始めたのは、高校で現役を引退し、大学に入った後からです。
他の人が選ばないような道に進みたいと思うようになり、未知の世界へ飛び込みたくなりました。
そこで、バックパッカーとしてインドや南米を旅したんです。
その過程では苦い経験もしましたが、新しい世界を知るという貴重な経験もできました。
── 新卒でエネルギー系の専門商社へ入社したのはなぜですか?
内定をもらった中で一番安定した企業だったからです(笑)。
というのも、僕はもともと安定志向がとても強く、「自分が将来安定した生活をするには」という軸でキャリアを考えていました。
そこで、安定した会社に入って約40年間生きていくか、急成長している企業で自分を鍛えながら、「どこでも生きていける」という意味での安定を手に入れるかで悩みました。
結局、当時の僕にはベンチャー企業を選ぶ覚悟はなく、安定した会社に入ることにしました。
もちろん、当時の選択に後悔はありませんが・・・!
入社した会社では営業に配属され、かなり泥臭い仕事をしていました。
自分で言うのもなんですが、泥臭い仕事は得意でした(笑)。
ただ、仕事をする中で、自分の弱さもたくさん見えて、僕なりに壁にぶつかっていました。
── 自分の弱さについては、どのように乗りこえていったのでしょうか?
とにかく「安定」を重視していたので、早く仕事で成果をだせるよう、自分の成長だけを考え、ときには休日も返上して朝から晩まで仕事に打ち込みました。
あとは、次々に大きな成果を出していく上司や先輩が近くにいたのは大きかったですね。
仕事の仕方を学び、本質的なフィードバックをもらえたのは良い環境だったと思います。
その過程で、少しずつ小さな成功体験を積み重ねながら乗り越えていきました。
── 充実した毎日を過ごされていたと思いますが、なぜ転職を決断されたのでしょうか?
新しい環境で自分を試し、キャリアの選択肢を広げたかったからです。
このまま毎日同じような仕事を続けていたら、僕のキャリアの先には「国内営業」しかないように思えたんです。
もちろん、営業のプロフェッショナルとして生きていく道も素晴らしいと思います。
ただ、当時の僕は、国内営業のスキルしかない自分や、営業職以外に可能性が広がらない自分のキャリアに不安を感じて、転職すべきかどうか思い悩んでいたんです。
そこで、まずは社内で他の部署への異動を模索しようと、海外事業への公募など、さまざまな手を尽くしましたが、実現はしませんでした。
だったら、もう自分の身を置く環境を変えるしかないと思い、転職を決断しました。
インドで就職・起業したのは、“振り幅の大きな”意思決定をしようと思ったから
── そこで、なぜインドで働くことにしたのでしょうか?
インドで働く環境が、日本にいたときの環境とまったく違ったからです。
・会社規模:ある程度大きな上場企業(現在)→ベンチャー企業(転職後)
・ポジション:一般社員(現在)→マネージャー(転職後)
どうせ環境を変えるなら、振りきった選択をしようと思いました。
これまで大事な決断をするとき、僕は「意思決定の振り幅」を意識してきました。
一度振り幅の大きな意思決定ができれば、今後の人生もそれと同じか、より大きな意思決定ができると思っているからです。
── もう少し詳しく教えていただけますか?
人間は、今までとはまったく違う環境でチャレンジしようとすると、怖さで前へ進めないことも多いと思います。
ただ、一度その恐怖を乗り越えてしまえば、それが自信に繋がり、次に何か新しいことに挑戦したくなったときに、きっとまた一歩踏みだせます。
それが自分の成長や自分の人生を豊かにすることに繋がると思っていたので、僕自身、置かれる環境を大きく変えようとしていました。
結局、古い知人から紹介してもらった企業が、僕の決めていた軸に一致したので、3年間の日本での会社員生活を終えて、インドへ渡りました。
── 当時はどのようなお仕事をされていたのでしょうか?
前職の会社は、日本人向けにインドでの英語留学・IT留学・インターンのプログラムを提供していました。
僕はおもに、集客に向けたWebマーケティング施策の立案、留学を検討されている方のカウンセリングをはじめとした営業活動、プログラムやサービスの改善に携わっていました。
ほかには日本人マネージャーとして、インターン生やインド人講師のマネジメントや採用活動、会社の業績管理にも携わっていました。
集客・営業・納品という商流のすべてに関われていたことや、事業全体を任されたことはとても良い経験になりました。
また、既存のプログラムの改善が形になってからは、インド就職やインド留学に特化したメディアや大学留学のプログラムなど、新しい事業の立ち上げにも携わりました。
── 既存サービスの改善に加え、新規事業の立ち上げまでされていたとは・・・!
覚悟してきたとはいえ、インドに来た当初は、変化の大きさがあまりにもツラくて、転職したことを少し後悔していました(笑)。
エネルギー商社時代はお客様に会うのが仕事で、パソコンの前に座る時間はわずかでしたが、前職は集客も営業もWebが中心で、パソコンでの作業が仕事と認められる環境だったんです。
インドでの生活には問題ありませんでしたが、これまでと正反対の仕事に慣れるまでに、とても時間がかかりました。
そこでまずは、とにかく量をこなして仕事に慣れることに注力し、それから徐々に仕事の質を上げていこうと、がむしゃらに働きました。
── 最初は少し後悔したとのことですが、なぜそこで諦めなかったのでしょうか?
一度自分で決めたことは、最後までやりきりたいという気持ちがありました。
もともと1年間インドで働いたら、日本で転職しようと思っていたんです。
インドというタフな環境で1年間頑張れば、次のキャリアの可能性が広がるのではないかと思っていたからです。
それに、ここで諦めたら後がないと思っていたので、学生時代にサッカーで鍛え上げた忍耐力で頑張りました・・・(笑)!
── もともとは1年だけの予定だったとのことですが、なぜ2年間勤務したのでしょうか?
結局、1年では自分の経験として語るには足りないと感じたからです。
もちろん、間違いなく成長できる環境に身を置けていたからでもあります。
前職の代表と一緒に仕事をするなかで、頭の回転の速さに驚かされたことが何度もありました。
そんな代表の下で事業を任され、どんどん新しいチャレンジもさせていただく過程で、たくさんの学びや気づきがありました。
ここで頑張り続ければ、将来的に自分で事業を始めるなど、次の可能性がグッと広がると信じられたんです。
── そこから、どのような経緯で起業することになったのでしょうか?
前職での2年目も終盤に差しかかった頃、退職の意向を伝えました。
ただ、その段階では次に何をするかがまったく決まっておらず、周囲に相談しながら、自問自答する毎日が続いていました。
ここでも、振り幅の大きな意思決定をしようと考えた結果、自分の中では一番考えられない選択肢だった「起業」を選びました。
起業するにあたっては、「自分ができること」、「自分がやりたいこと」、「社会にとって良いもの」の軸で考えました。
考えぬいた末の答えが、インドでサッカーアカデミーを運営することでした。
── もう少し具体的に教えていただけますか?
「自分ができること」の軸で考えると、前職で2年間、集客・営業・納品という商流のすべてに関わりながら、リアルビジネスを動かしてきた経験が、僕にはありました。
「自分がやりたいこと」は、サッカーと教育でした。
サッカーは今の僕を作ってくれたと言っても過言ではありません。
そして、前職での経験を通して、教育が一人の人生を左右すると強く実感し、教育に関心を持つようになっていました。
自分ができること・やりたいことを通して、社会にとって良いものを作りたいと考えたとき、インドでサッカー文化を広めながら、教育にも貢献できるビジネスができたら最高だと思ったんです。
その手段として考えたのが、サッカーを通して子どもたちの道徳・モラル教育に寄与することでした。
── 道徳やモラルに目を向けた背景について教えていただけますか?
インドは経済成長で注目されているとはいえ、まだ新興国です。
街を歩くと信号や車線を無視すること、時間を守らないことは日常茶飯事で、約束を破るのも当たり前です。
ここにはモラルの欠如があると思います。
例えば車の運転には、モラルが表れると思いますが、インドの交通事故死亡者数は15万人で世界1位、日本の約40倍です。
もちろん、日本とインドの人口差が10倍であることも考慮する必要がありますが、人口のせいだけではないはずです。
「それがインドだから」で片づけるのは簡単ですが、僕は経済成長だけでなく、道徳観やモラルの観点からも、この国をもっと良くしたいと思っているんです。
・リアルビジネスの運営経験を活かす(「何ができるか」の軸)
・インドの道徳観やモラルを上げる必要性を感じていた(「社会にとって良いこと」の軸)
サッカーを通して、インドの教育課題を解決するために奮闘する毎日
── 現在の事業について教えていただけますか?
日本人経営としてはインド初のサッカーアカデミー「TSUBASA Football Academy」を運営しています。
4歳〜13歳の子どもたちを対象に、サッカーのスキルはもちろんですが、社会性を育む教育に力を入れながら指導に当たっています。
生徒の中にはインド人だけでなく、日本人のお子さんもいます。
僕たちはサッカーを通して、思いやりや忍耐力、失敗を恐れずチャレンジする勇気、ルールやマナーを守る意識やチームワークを大切にする気持ちを養ってほしいと考えています。
そのために、アカデミーではこのような取り組みを行っています。
・感謝の気持ちを持てるように、ユニフォームや道具を正しく扱うよう指導する
・時間通りに集合・整列できるよう徹底する
・国籍にかかわらず、仲間を思いやる心を育めるように、日本人、インド人混合のクラスにする
毎月、きちんとできた生徒を褒めて、表彰するようにしています。
── とても素敵な理念のもとで運営されていますね! 子どもたちの指導もすべて高岡さんがご担当されるのでしょうか?
設立当初、子どもたちの指導については、採用したインド人コーチにほとんど任せていました。
クラス自体は僕も見ていましたが、あくまでサポート役で、具体的に練習メニューを組むのはインド人コーチでした。
当時の僕はまず、マーケティングや営業に力を入れる必要があったからです。
ありがたいことに、今は生徒数が100名以上になり、インド人コーチの採用や教育の仕組みづくりに注力するようになりました。
以前よりもクラスにかける時間や労力を増やし、僕の教え方や練習メニューの作り方などをインド人コーチに伝えています。
── お仕事のやりがいについて教えていただけますか?
僕の大好きなサッカーの楽しさを、子どもたちに伝えられていることです。
子どもたちは、僕たちのアカデミーに通い始めたことがきっかけで、サッカーを始めることがほとんどです。
クラスを通して、みんながサッカーを好きになってくれるのが何よりの喜びです。
「片付けができるようになった」、「挨拶ができるようになった」、「親への感謝を示すようになった」・・・など。
保護者の方から子どもたちの変化について、ポジティブなフィードバックをいただけると嬉しいです。
指導を通して子どもたちが成長していくことで、自分が提供しているサービスの社会的意義の高さを改めて実感しています。
── 逆に、難しさはありますか?
外的な要因として、インドの気候にはとても悩まされています。
真夏のインドは50度近くまで気温が上がりますし、夏が終われば雨期で大雨、雨期が終わっても大気汚染の悪化、そして冬はかなり冷え込みます。
外部環境の変化によって、子どもたちを外に出したくない保護者の方もいらっしゃるので、事業に影響してきます。
スタッフの体力面を考慮しても、猛暑の中での指導は厳しい面があります。
ほかには、インド人コーチの採用と教育に苦労しています。
サッカー人口がまだまだ少なく、サッカーの歴史も浅いインドで、きちんとした指導軸を持ち、子どもたちに小さな成功体験を与え続けられるコーチを見つけだすのは大変です。
そこで、若い世代のコーチを採用・教育するのですが、個性が強く、同じことを繰り返し伝える必要があるなど、苦労している部分もあります。
また、ついサッカーのテクニックを教えることに注力しがちなインド人コーチに対して、「子どもたちの社会的な教育に寄与すること」というアカデミーの理念を浸透させる難しさを感じています。
── インド人スタッフと向きあうにあたって、何か心がけていることはありますか?
僕はマネジメントにおいて、インド人も日本人も関係ないと思っているんです。
それよりも、誰が指導しても同じ成果が出せるような、再現性のある仕組みづくりを心がけています。
もちろん、育ってきたバックグラウンドが違うので、衝突することはあります。
そんなときは、彼らの考え方や違いを受け入れた上で、良いところを上手く引き出していくことが大切だと思っています。
気になる今後と海外で働きたい方へのメッセージ
── 高みを目指して努力を続ける姿や、事業にかける思いが印象的なお話でした。今後についてはどのようにお考えでしょうか?
今のアカデミーを、10年後にインドで会員数・拠点数ともにナンバーワンにしたいと思っています。
あとは、2030年代のどこかで、インドがきっとサッカーのワールドカップに出ると思っているんです。
そのときにインド対日本の試合を見たいと思っていて、そこに僕たちのアカデミーの卒業生が出ていたら最高です!
そのためにも、まずはアカデミーの知名度をもっと上げたいと思っています。
目標に向けて、今年はチーム一丸となって、サービスの改善に注力していきたいと思っています。
── とても素敵な目標ですね! 最後に、海外で働きたい方へのメッセージをお願いします!
迷ったときに、より難しそうな道を選択した方が、人生はもっと豊かになると僕は思っています。
もし海外に出るか、今の環境に残るかで悩んでいるなら、どちらがより大変かを比較してみるといいのかなと思います。
あえて大変な方に一歩踏みだすのはとても勇気のいることですが、一歩踏みだしたら、あとは必死にやるだけ。
振り返ってみると、怖かった一歩目がなんてことなかったりするものです。
だからこそ勇気を出して、「怖い!」と思う方へ一歩踏みだしてほしいと思っています。
一度慣れてしまえば、海外で働くのはとても楽しいですよ!
まとめ
いかがでしたか?
「迷ったときに、より難しそうな道を選択した方が人生は豊かになる」
常により多くの困難を伴う道を選び、奮闘してきた高岡さんの生き方を体現したようなメッセージだと思いました。
何かを決断するときは、常に「意思決定の振り幅」を意識して進んできた高岡さんの姿から、私自身も学ぶことがたくさんありました。
「大好きなサッカーを通して、インドの教育課題を解決したい!」
熱い思いを胸に、子どもたちやインド人コーチたちと向き合い、サービスの改善に向けて奮闘する姿も印象的でした。
今後どのように事業を拡大していくのか、そして高岡さんが夢を実現させる日がとても楽しみです。
高岡さん、今回は貴重なお話をお聞かせいただきまして、本当にありがとうございました!
今後のご活躍を心より応援しています。