マニラの起業家・金光淳規さんが次世代の起業家へ送る4つのアドバイス
今回はフィリピン・マニラで2つの会社を立ち上げ、経営されている、金光淳規さんに伺ったお話をお届けします。
経営者でもあるお父様の影響を受け、学生時代から、将来起業することを考えながら行動されてきた、金光さん。
国際色豊かな監査法人に勤務し、スキルアップのために受講していたオンライン英会話をヒントにして、起業されました。
そんな金光さんですが、事業の立ち上げから今に至るまでは手探りで進めてきた部分も多く、後から知ったことも多かったそうです。
今回は金光さん自身の経験を踏まえ、これから起業する方にとって参考になるアドバイスをたっぷりと伺ってきました。
- 金光さんが起業するまでの具体的なステップとは?
- 起業を成功させる秘訣とは?
- 海外で事業を展開する上で心がけていることとは?
ぜひお読みください!
明治大学経営学部出身、公認会計士。2006年12月にあらた監査法人(現PwCあらた有限責任監査法人)に入社し、卒業後の2007年4月に正社員に。2011年に株式会社グランドライン(東京都中央区)とフィリピン現地の完全子会社Grandline Philippines Corporationを設立し、オンライン英会話・語学留学を中心とした教育関連事業とコンサルティング事業を展開している。2018年には公認会計士としての知見を活かし、Japan Quality Business(JQB) Solutions Inc.を設立。主にフィリピンの日系企業を顧客とした記帳代行・税務申告サービス事業を展開している。
*当日伺ったお話をもとに執筆。
目次
監査法人で学んだ「コンプライアンスの大切さ」と「成功するビジネスの条件」
── マニラで起業し、事業を展開されていますが、海外に目を向けたきっかけについて教えていただけますか?
もともと、海外に関心があったというよりは、未知の世界かつ大きな可能性のあるところで挑戦したいという気持ちが強かったですね。
小学校の頃、野球の野茂英雄投手に憧れていたんです。
当時は多くの競技で、日本人選手が海外で挑戦し始めた時期でしたが、成功するケースはとても少ない状況でした。
そのような中、野茂選手がアメリカのメジャーリーグで活躍する姿を目にし、僕もいずれこのような舞台で挑戦したいと思うようになりました。
起業については、実家が自営業だったことから、起業や経営を身近に感じていました。
それで、中学・高校時代から「どのようなビジネスをしようか」とずっと考えていましたね。
── 学生時代から将来のビジネスについて考えられていたとは、驚きました。「大きな可能性のある場所」で挑戦したい気持ちが海外での起業に繋がったのでしょうか?
そうですね。
可能性という視点から、海外の中でも、特に経済成長の見込みがある国を意識していました。
日本と海外の経済状況を比較したとき、成長がゆるやかになっている日本に参入する余地はほとんど残されていないと思ったんです。
一方、新興国であればまだまだこれからの部分もあり、自分がきちんとしたスキルさえ持っていれば、何か形にできるのではないかと思いました。
── 長年「起業したい!」という思いをお持ちでしたが、なぜ新卒で監査法人へ就職されたのですか?
大学進学を前に父に相談したところ、今後経営にあたっては、コンプライアンスをきちんと理解することが大切であると言われました。
昭和時代は勢いで乗り越えられた部分もありましたが、平成に入ってからはだんだん規制も厳しくなり、両親も苦労していたので。
父からは弁護士か公認会計士の資格取得を勧められ、最終的に、税務・会計・法律に幅広く精通した公認会計士になることを選びました。
また、会社を自分で立ち上げる前に、きちんと会社の仕組みを見て、組織について理解した方が良いと思いました。
そのためにも、業務を通してさまざまな会社と関われる、監査法人で勤務することはベストな選択ではないかと思ったんです。
── 監査法人でのご経験で、起業に活きた部分は何かありますか?
まず、海外で事業をするにあたって、コンプライアンスの考え方はとても役に立つと感じました。
独裁国家などの特殊な事情がない限り、「〜するべき」という法律に関わる考え方は世界共通だからです。
海外でビジネスをする際、注意しないと、怪しい話や落とし穴にはまる可能性もあります。
コンプライアンスについてきちんと理解できていれば、「クライアントやパートナーの提案が法律上、実現可能なのか」という尺度で考えられるんです。
原書類に立ち返って確認する習慣を持ち、物事の真偽をきちんと判断できることで、騙されることが少なくなります。
ほかには、規模や業界を問わずさまざまな会社の監査に携わることで、ビジネスを上手く軌道に乗せるために必要な条件が見えてきましたね。
── ビジネスを上手く軌道に乗せるには、どのような条件が必要だったのでしょうか?
僕自身が持ち合わせていたもので考えたとき、以下の3つの条件が揃うべきだと考えました。
- 在庫を持たなくてよい
- 固定費が掛からない
- 将来的に成長可能性がある
すると、あることに気がつきました。
当時、僕自身が受講していたオンライン英会話が、この条件をすべて満たしていたんです。
前職で勤務していた監査法人でも、外資系企業のお客様のサポートに携わるなど、英語の必要性は感じていました。
なかでも、英語でのプレゼンテーションの直前に必要な準備など、ビジネスマンが仕事に使える英語を学べるサービスがもっと必要だと感じたんです。
それが起業のきっかけになりましたね。
起業当初はすべて手探り!そこから学んだ、起業を成功させるための秘訣
起業当初のオンライン英会話事業に加え、現在はさまざまな英語教育に関する事業を展開されている金光さん。
これまで手探りで進む中で、起業にあたって必ず守るべきポイントに後から気づくことも多かったそうです。
ここでは、金光さん自身の経験を振り返りながら、起業成功に向けた秘訣について伺ってみました。
1. 先人たちの考えや行動にはすべて意味がある!
海外でオンライン英会話事業を立ち上げようと決意したとき、カナダ・シンガポール・ベトナム・フィリピンがビジネスの拠点として、候補に挙がっていたそうです。
最終的には、既に競合がいることから、避けようと思っていたフィリピンを選ぶことになりました。
── 候補地が複数あった中で、最終的にフィリピンを選んだのはなぜですか?
各国について調べたところ、下記のようなデメリットがありました。
・シンガポール:人件費が高い。
・ベトナム:英語を話せる人が意外と少ない。
結局、既に他の方が検証した、「フィリピンが最も有力な拠点」ということを再確認するだけになってしまいました。
他に競合がいないところを狙おうとしましたが、他の人が選ばないことにはきちんと理由があるんですよね・・・!
2. お客様を事前に見つけた状態で、サービスの提供をスタートする!
監査法人で勤務をしながら、2009年頃から会社設立に向けた準備をしていた金光さん。
ただ、起業当初はほとんど売上がない状態が続いたと言います。
そんなご自身の経験から「起業に失敗しないための鉄則」があるとお話されていました。
── 創業当初は売上が上がらず、苦労されたんですね。「失敗しないための鉄則」について教えていただけますか?
確実に発注あるいは契約をしてくださるお客様がいる状態で、サービスの提供を始めることが何より大切です。
あるいは、宣伝に必要なWebサイトを事前に作り、サイトが出来上がった段階で集客をするのであれば、まだ救いはあるかもしれません。
ただ、会社を立ち上げてからWebサイトを作り始め、サイトの完成後に集客するのは絶対におすすめできません。
僕自身は、監査法人在職中の2009年から会社設立の準備に向け動いていました。
具体的には、Webサイト制作者やフィリピン法人の代表となるフィリピン人のビジネスパートナー(※)を探す、などです。
今振り返ると、これだと準備はゼロに等しいと言えます(笑)。
※フィリピンの外国投資規制の都合で、教育関連事業では、外国人は40%しか資本を持つことができません。よって、代表を務めてくれるフィリピン人が必要です。(ただし、オンライン事業の場合は本来この限りではありません。)
── 何よりも事前にお客様を確保することが大切なんですね。
僕の場合、会社設立と同時にWebサイトの制作を始め、翌年からサービスを提供し始めました。
正直なところ、Webサイトさえできれば、少し広告費をかけてマーケティングをすれば、問い合わせが来るだろうと思っていました。
今考えると、本当に読みが甘かったのですが(笑)。
結局、たまたま母校の明治大学から、学術的かつ実践的な内容で留学プログラムを組めないかとご相談をいただき、ご要望にお応えするプログラムを提供することで、資金難を逃れることになりました。
大学との提携という評判が与えたインパクトは大きく、その後、監査法人で数社ご契約をいただきました。
最初の3年ほどは苦しい時期が続きましたが、監査法人は横の繋がりが強いこともあって、だんだんとお客様も増え、今に至ります。
3. ビジネスパートナーは慎重に選ぶ!
── いきなりフィリピン大学と提携してプログラムを組むのは難しいように思えるのですが、その背景についてお伺いできますか?
フィリピン法人の代表であるビジネスパートナーがさまざまな繋がりを活かして、話を前に進めてくれました。
起業にあたって、最も運が良かったことは、ビジネスパートナーに恵まれたことです。
特に、海外での起業の場合、ビジネスパートナーを選び間違えて、事業に失敗するケースをよく見掛けます。
僕の場合、たまたま紹介してもらった人が優秀で、信頼できる人だったので、本当に良かったと思っています。
4. まずは法人向けビジネスで基盤を作る!
現在の事業は、オンライン英会話、語学留学、マニラ在住の駐在員向けの通学型英会話、大学生向けの海外インターンシッププログラムの提供など、多岐に渡ります。
駐在員向けの通学型英会話事業をのぞき、法人向けのサービスが基本だとお話されておられました。
一体なぜでしょうか?
── オンライン英会話も語学留学も、個人向けにサービスを提供するイメージでした。なぜ法人向けに展開されているのでしょうか?
これは会計士として培った経験から学んだことですが、個人向けビジネスには、以下のようなデメリットがあります。
- 個人の潮流次第で浮き沈みが激しく、ビジネスとして不確実性が高い
- 広告にある程度の費用をかける必要があり、初期投資が大きくなりがち
特に、中小・零細企業にとって、広告費用の問題は、すぐに効果がでない場合にかなりの痛手となります。
一方、法人向けビジネスについては、以下のようなメリットがあります。
- しっかりと関係を築き、年間契約を獲得できれば、成約金額も大きく、ビジネスとして安定性が高い
- サービスのメリットがしっかりと伝わるプレゼンができれば、広告費はさほどかからない
もちろん、ビジネスをさらに拡大するために、個人向けビジネスに目を向けるタイミングも出てきます。
ただ、それまでは法人向けビジネスで基盤を固め、その収益をもとに新しい事業に投資していく形が理想的だと思います。
- 先人たちの考えや行動にはすべて意味がある
- お客様を事前に見つけた状態で、サービスの提供をスタートする(最重要)
- ビジネスパートナーは慎重に選ぶ(特に、海外起業の場合)
- まずは法人向けビジネスで基盤を作る
お客様もスタッフも一緒に成長する環境を作る
── 今のお仕事でどんなところにやりがいを感じますか?
お客様と社員がともに成長する姿を目にするのが何よりも嬉しいことです。
お客様の中には海外経験があまりなく、フィリピンの環境自体はもちろん、文化や考え方の違いに最初は苦労される方もいらっしゃいます。
それでも、研修が終わる頃には上手く環境に適応し、考え方にも良い変化があったと伺いました。
語学力だけでなく、海外でのコミュニケーションの取り方といった非言語スキルの部分でも、お客様の成長をサポートできていることを実感しています。
一方、社員については、その吸収力の高さや伸びの速さに感心しています。
もともと、「ビジネスパーソンが言おうとすることを英語に置き換えること」を目的としており、単に教えるのではなく、上手く引き出して欲しいと伝えていました。
そのためには、お客様の会社に対する理解を深める必要があり、企業サイトや年次報告書については、最低限目を通すようお願いをしていたんです。
最近では、お客様の製品やサービス、事業について、僕が知らないことまで教えてくれるようになり、よく驚かされています。
── 逆に、難しさはありますか?
お客様にご満足いただけるよう「忖度」するという考え方を社内に広めるのに苦労しています。
フィリピンの方々は一度型が決まったら、先程お話したような抜群の吸収力と推進力で、結果に向けて走り出します。
一方で、タスクやこちらがお願いしたいことを明確に伝えきれない場合、想像力を働かせて自主的に行うことはやや苦手です。
新しいスタッフを採用したときや新規事業を始めるときにはその傾向が顕著に現れるため、ミスやトラブルが起きやすくなるんです。
ただ、これについては日本の流儀を推し進めるのではなく、フィリピンの文化を理解するよう努めました。
その上で、マニュアルを作成するなどの工夫をしたり、新規事業にあたっては、型が決まるまではこちらでリードするように心がけています。
── これまでいろいろと大変なこともあったと思いますが、上手く乗り越えられた秘訣はありますか?
まず、「なんとかなる!」という楽観的な気持ちがあります。
それに、僕を信じて働いてくれる人たちがたくさんいるので、みんなのためにも投げ出すわけにはいきません。
また、「経営者は自分が働かなくてもいい仕組みを作るために、死ぬほど働く」という父の教えを胸に刻んできました。
経営者である僕一人の力では何もできず、誰かにお願いをする必要があります。
代理店のみなさんが紹介しやすい仕組みづくりはもちろん、社員が自社で働き続けるにはどうすればよいのか・・・。
何かお願いをしたとき、周囲に動いてもらえるような仕組みづくりをすることにエネルギーをたくさん費やしましたね。
あとは、僕自身が自主性を妨げられることにストレスを感じるので、自主的に決めて動けるような環境づくりに注力してきました。
気になる今後と海外で働きたい方へのアドバイス
── 今日のお話はこれから海外起業にチャレンジする方にとって、とても参考になるお話でした。今後についてはどのようにお考えですか?
これまでは日本人や日系企業向けにサービスを展開してきましたが、今後はフィリピン現地の市場にどんどん入り込んでいきたいと思っています。
教育事業を中心に展開する会社のGrandlineでは、近年増えている日本語教育のニーズにお応えするために、日本語教育事業を展開したいと思っています。
また、もっと純粋にフィリピンに根ざしたビジネスとして、現地の人たちに実践的なMBA教育が受けられるようなサービスを提供したいですね。
フィリピンは一般スタッフやトップマネジメントのレベルでは優秀な方が多数いらっしゃいますが、中間管理職に当たる層が極端に少ないので。
MBAのサービスについては、最終的にフィリピンだけでなく、アジア各国から学びに来てくれる仕組みづくりができればいいですね。
── 今まで以上に、フィリピン現地の市場に目を向けていきたいとお考えなのですね。
公認会計士としての知見を活かして2018年に設立したJQB(※)でも同様に、最終的にはローカル企業向けにサービスを提供したいと思っています。
フィリピン経済は、OFW(Oversea Filipino Workerの略。海外で働くフィリピンの方々)やBPO事業で支えられています。
この2つのビジネスを軸に、新しいサービスを打ち出せると理想的ですね。
ただ、今お話したことは少し先のことなので、現状はフィリピンに進出する日系企業におけるシェアの拡大を目指すことで、その基盤を作ろうと思っています。
※金光さんが別の事業として展開している、フィリピンの日系企業向けに記帳代行・税務申告を請け負っている会社のことです。
── まだまだ可能性が広がっていて、今後がとても楽しみですね! 最後に、海外で働きたい方へのメッセージをお願いします!
僕自身の経験はもちろん、周囲を見ていても、ここでの経験はきっと財産になると思っています。
すべてが自己責任という環境で、負うべき責任も大きく、経験値は格段に上がるので。
もちろん、大変なことばかりではなく、思ったことが実現しやすいといった良さもありますし・・・!
海外では多くの人と出会い、さまざまな価値観に触れることで、視野も広がり、新しいアイデアもたくさん出てくると思います。
ただ、楽しい反面、思わぬ落とし穴やトラブルに巻き込まれる可能性もあるので、下調べや準備を怠ることなく、挑戦して欲しいですね。
まとめ
いかがでしたか?
経営者であるお父様の姿を追いかけ、マニラでオンライン英会話事業を立ち上げ、サービスの幅をどんどん広げながら、今日まで走り続けてきた金光さん。
その過程では、手探りで進めてきたところも多く、失敗や後悔もたくさんあったそうですが、すべて笑顔でお話される姿が大変印象的でした。
私自身、そんな金光さんのお姿から、大変勇気をいただきました。
また、今回金光さんがお話してくださった、起業に際してのアドバイスや心構えも、ぜひ参考にしてください。
- 先人たちの考えや行動にはすべて意味がある
- お客様を事前に見つけた状態で、サービスの提供をスタートする(最重要)
- ビジネスパートナーは慎重に選ぶ(特に、海外起業の場合)
- まずは法人向けビジネスで基盤を作る
金光さん、今回は貴重なお話をお聞かせいただきまして、ありがとうございました!
今後のご活躍、とても楽しみにしております。